2010-01-01から1年間の記事一覧

不幸と幸福について

これは、私が購読しているeireneさんのブログに紹介されていたものです*1。宮台は以下のように言っています。 いま日本の男たち見てわかるだろうか。 これはね、不幸なようで幸い、あるいはね、幸いの中にめちゃくちゃな不幸がある、つまり幸いと不幸が切っ…

新井英樹について

新井英樹の作品をご存知ですか。わたしはかれの作品の愛読者です。彼の作品は、人間の、いやただただ生の極限を描いているように思われる。わたしたちの生のその根底の部分を、ぬきさしならぬ緊張感を持って描いています。 わたしが脳天をぶちぬかれたのは、…

2010/12/14 クローズアップ現代「胎児エコー検査 進歩の波紋」について*1

妊娠がわかる。私に子どもができた。ついに、待望の、愛する人の、愛する私たちの、子どもができた。 産婦人科に行く。検診を受ける。胎児のエコー検査でわかる。私たちの子は、「異常」を抱えている、すくなくともその可能性がある。 私は悩む。子どもにと…

自殺と寺山とデカルトと

最近、自分に行き場がなくなって、のどがつまりそうになればなるほどに、何かを無償に書きたくなります。 ふと、自転車に乗っていた私は、自殺について考えました。 自殺っていうのは、自分自身を殺すことだけれども、ほんとうに純粋に「自殺」することなど…

「日比野克彦 個展「ひとはなぜ絵をかくのか」」*2

これまで、このブログでは、なぜひとは詩を書くのか、人はなぜ共有することを望むのか、という問いを提出してきました。 今日の新聞で興味深いものがありました。それは日比野克彦さんの個展「ひとはなぜ絵を描くのか」*1についてのものです。 すくなくとも…

「荒川洋治評 田村隆一全集1」*3

詩を書く人荒川洋治が、同じく詩を書いた田村隆一の全集出版にあたっての書評を書いています。荒川は、この書評の中で、田村を「詩そのものに興味をなくした人たちには、遠ざかる存在でしかないだろうが、近代の詩とは異なる現代のものを、鮮やかに表した。…

「「生」と「命」高校生の思い」*4

今回私の心に触れたのは、河瀬直美監督の映画「玄牝――げんぴん――」*1の試写会に関しての記事です。私はまだこの映画を見てわけではありません。けれども、この新聞記事内の描写に引き寄せられます。 このドキュマンタリー映画の主題は、薬や医療機器に頼らな…

中也のぶらんこ

「妹よ」 中原中也夜、うつくしい魂は涕(な)いて ――かの女こそ正当(あたりき)なのに―― 夜、うつくしい魂は涕いて、 もう死んだつていいよう……といふのであった。 湿った野原の黒い土、短い草の上を 夜風は吹いて、 死んだつていいよう、死んだつていいよ…

「科学と精神分析(2)」

今日は、「科学と精神分析(1)」の続きです。「科学」とは、「医学」すなわち、香山リカの立場を、そして「精神分析」とは戸川の立場を考えて書いています。前回私が述べたのは、結局香山は、「医学」の側から、患者を治療する中で「病」を措呈しており、根…

" Shooting Dogs"

"Shooting Dogs"という映画があります。邦題では「ルワンダの涙」ですが、原題の方が私は好きです。この作品の肝心な部分を以下で叙述することになるということ、およびyoutubeではその箇所が見られるということ、また今回は実証性を重視したものではなく私…

臓器移植の実施状況等に関する報告書

厚生労働省HPで、「臓器移植の実施状況等に関する報告書」がpdfでダウンロード可能な形で発表されています。以下URLです。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000uel8.html 移植の結果どれくらいの生存率(移植術を受けた患者のうち、ある期間…

科学と精神分析(1)

「生きづらさ」を扱った本や論文は様々にあります。それらに接する際に、それらを書く人の立場や、書く人の目、観点に、私たちは注意しなければなりません。 (1)精神医学――香山リカ たとえば香山リカの『生きづらい<私>たち 心に穴があいている』*1があ…

 金原ひとみ『蛇にピアス』

金原ひとみの『蛇にピアス』という小説があります。生の「実感」に関して興味深い体験が、そこでは記述されています。 いくつか引用してみましょう。 「(...) 私は彼の舌に魅せられた。そう、私は彼の二手に分かれる細い舌に魅せられた。どうして、あんなに…

斉藤史のことば ――不自由さを生きるということ

おいとまをいだただきますと戸をしめて出てゆくやうにゆかぬなり生は 過日、93歳で亡くなった斎藤史の歌である。彼女の父、斎藤瀏(りゅう)少将は二・二六事件に連座して位階を剥奪され、下獄。彼女の幼なじみは処刑された。このような歴史をともに生きた彼…

「表現としての飲酒――AA誕生時に見られる自覚の伝達を巡って――

先日、脇坂真弥さんの「表現としての飲酒――AA誕生時に見られる自覚の伝達を巡って――」という論文を読みました*1。この論文を手にした理由は、なにかに依存せずには“生きられない”という状況をこの論文は扱っているからです。私は、生に否定的に付きまとう…

 「60年代のリアル」について

佐藤信さんの「60年代のリアル」の(5)と(6)について*1。 (5)について言えば、興味深いのは以下の点です。 すでに紹介した三田誠広の『僕って何』(河出書房)は「ここに僕がいるという感じさえもうすれ、僕の意識が一個の肉体を離れて、デモ隊列全体のひとま…

「リアル」/実感について

前回も取り上げた佐藤信さんの連載の(4)「浮遊する若者たち」というエッセイが7/29毎日新聞朝刊に掲載されていました。 そこでは、60年代の若者が何に「リアル」をもとめているか、の問い対して、ライブハウスないし「ヘアー」という演劇集団の事例が引き合…

「ぼくがリアルを語るイミ」

毎日新聞の記事に「ぼくがリアルを語るイミ」という佐藤信という東京大学法学部4年生のエッセイが掲載されていました。 これは、「60年代のリアル」という連載のうちのひとつで、「リアルとはなんだ?」「何がリアルなんだ?」という60年代の安保闘争の青年…

鈴木謙介『カーニヴァル化する社会』

鈴木謙介『カーニヴァル化する社会』*1について。まず、鈴木が問題にしているもので、私が共有するものをその理由とともに考えます(1)。ついで、その問題に関して可能な議論を考えます(2)。 1. 問題点の共有 本書は、21世紀を迎えた日本社会にあって、…

黒崎剛「「死ぬ権利」をどう考えたらよいか――自殺件の虚構性と安楽死の根拠――」

黒崎剛「「死ぬ権利」をどう考えたらよいか――自殺件の虚構性と安楽死の根拠――」*1を読んで考えたこと。 当論文は、自殺や安楽死が問題となるときに主張される「死ぬ権利」について、まず歴史的に(言説として)それがどのように登場してきたかを俯瞰すること…

富積厚文「スピノザ思想と自殺の問題――生きることの意味とは何か

富積厚文「スピノザ思想と自殺の問題――生きることの意味とは何か*1」を読みました。 筆者は、スピノザを読んだことはありませんが、この論文を通する限り、きわめて強くスピノザに惹きよせられました。 当の論文は、「自殺」という事象を、スピノザ思想にお…

千田有紀「新自由主義の文法」

今日取り上げるのは、千田有紀「新自由主義の文法」(『思想』2010年5月、No. 1033、岩波書店)です。 政治学の領域では、「公」(public)と「私」(private)というのは、有名どこではハンナ・アーレントの議論ないしハーバマスの議論等でしばし問題にされま…